【医師監修】産み分けコラム COLUMNS
【医師監修】卵子の質は妊娠にどう影響する?上げる方法はある?
「卵子の質」というワードを耳にしたことはないでしょうか?
卵子の質が悪いと妊娠が成立しづらくなるため、妊活を長引かせる要因になるとされています。ですが、卵子の質といってもどのように判断すればよいのでしょうか。また、卵子の質を上げる方法はあるのでしょうか。今回は、卵子の質にまつわるさまざまな疑問に答えていきます。
卵子の質とは?

卵子の質とは「妊娠が成立する卵子かどうか」を意味します。質のよい卵子は、次のような3つの力を持っています。
精子と出会い、受精する力
受精卵となり、胚になる力
染色体が正常で、順調に成長できる力
このうちのどれか1つでも欠けていると、なかなか妊娠に結びつきません。妊娠が成立しても、染色体数に異常がある場合はおよそ7~8割が流産してしまうといわれています。
卵子の質が悪いとなぜ妊娠しづらいのか
質が悪いとされる卵子の中では、一体何が起こっているのでしょうか。数々の研究結果から、質の低下した卵子では次のようなトラブルが起こっていると考えられています。
・卵子の減数分裂でエラーが生じ、正常に発達できない
・卵子の細胞内にあるミトコンドリアが働かず、卵子がエネルギーを補給できない
・卵子細胞質のカルシウム振動が維持されず、胚へと発達しない
これらのトラブルが生じることで、妊娠が難しくなってしまうのです。ただし、なかなか妊娠しない=卵子の質が悪い ということではありません。卵管の狭窄や排卵障害、精子のトラブルということも十分考えられます。検査をまだ受けていない場合は、一度不妊専門クリニックを受診してみましょう。
卵子の質が低下する原因は?

卵子の質が低下する原因は、加齢と酸化ストレスの2つです。それぞれ詳しく解説していきましょう。
①加齢
卵子の質は、ほぼ年齢で決まるといわれています。卵子は胎児のときから卵母細胞という形で存在し、排卵までずっと卵巣の中で眠っている状態です。女性の体内で新たに造られることはありません。つまり、30歳の女性であれば卵子も30歳なのです。
35歳を過ぎたあたりから卵子の質は低下しはじめ、40歳になるとかなり妊娠が難しくなってしまいます。できる限り早めの妊活が推奨されるのはこのためです。外見上若く見える方でも加齢にしたがい卵子は老化していき、それは避けることができません。
ちなみに、卵子の質は同じ卵巣内でもかなりばらつきがあります。ある周期の卵子があまりよくなかったからといって、いま卵巣に残っている卵子すべてが質の悪い卵子というわけではありません。ですが、年齢を重ねるごとに質のよくない卵子の割合はどうしても増えていってしまいます。
②酸化ストレス
年齢に加えてもう1つ、卵子の質を低下させるのが酸化ストレスです。生物は酸素を使ってエネルギーを発生させますが、そのときに酸素が細胞を傷つけてしまうことがあります。酸化ストレスは抗酸化ビタミンなどの働きで除去されますが、除去が追いつかなければ細胞の老化を早めてしまいます。
卵子が酸化ストレスにさらされると、ミトコンドリア機能低下・カルシウム振動阻害・染色体異常が引き起こされるリスクが高まります。卵子の老化をできるだけ遅らせるには、生活習慣をととのえて酸化ストレスを取り除くことが重要です。
卵子の質を検査する方法はある?
不妊治療検査では、FSH・LHやなど下垂体ホルモンの値を測定します。これらは卵子の成熟を促すホルモンで、卵子の質にも大きく影響します。しかし、この値で卵子の老化や染色体異常を知ることはできません。
最近話題となっている指標に、AMHという値があります。抗ミュラー管ホルモンと呼ばれるもので、数値が高いほど卵巣に残された卵子数が多いとされています。ですがこのAMHも、あくまで卵巣にある卵母細胞数を示す指標です。卵子の質を測るためのものではありません。
つまり、卵子そのものの質を精密に検査するのは難しいのです。年齢や各種ホルモン値、これまでの治療履歴をもとに推測していくことになります。
卵子の質を改善する生活習慣とは?

加齢によって質が低下してしまった卵子を、若い頃の状態に戻すことは不可能です。しかし、酸化ストレスをできるだけ抑えることで質の低下スピードを抑えられるかもしれません。ここでは卵子を酸化ストレスから守る生活習慣についてご紹介します。
禁煙
質のよい卵子を育むためには、禁煙が不可欠です。喫煙すると酸化ストレスが増大し、FSHやAMHの値が悪化します。また、喫煙者では早く閉経することが分かっており、卵巣へのダメージが懸念されます。
たばこは卵子だけでなく、精子の質にも悪影響を及ぼします。ED(勃起障害)には喫煙が関連しており、吸う本数が多いほどリスクが増加するといわれています。ご夫婦ともに、できるだけ早い段階で禁煙に取り組みましょう。
適度な運動
卵子の質を上げるには、適度な運動が大切です。身体を温めて血行をよくすることで、卵巣機能が高まります。息が軽く上がる程度の有酸素運動がよく、ウォーキング・ヨガなどリラックスしながらおこなえる運動がよいでしょう。時間の目安は30分~1時間くらい、無理なく楽しく続けられる範囲でおこなうと、精神的なストレスの発散・睡眠の質向上にもつながります。
運動のメリットとしてもうひとつ、肥満予防があります。肥満は卵子の質および妊娠率を下げてしまうことが分かっています。積極的に動いて、太りにくい身体づくりを目指しましょう。
十分睡眠をとる
卵子を酸化ダメージから守るには、十分な睡眠が欠かせません。睡眠中はメラトニンというホルモンが分泌されますが、メラトニンはビタミンCやE以上の強い抗酸化作用をもつとされています。メラトニンの分泌を正常にキープするために、睡眠時間はしっかり確保しましょう。起床時に日光を浴びる、朝食を毎朝摂るといった行為も、メラトニン分泌を促してくれます。
ちなみにOECD(経済協力開発機構)の報告によると、日本人女性の睡眠時間は加盟国中もっとも短いそうです。家事はできる限り機械にまかせて、ご自分の休息時間を確保しましょう。妊活情報を調べるのも大事なことですが、たまにはスマートフォンを脇に置いて、身体を労わってあげてください。
食事内容の改善
基本はバランスのとれた食事がベースになります。酸化ストレスを除去するために、抗酸化ビタミンA・C・Eやポリフェノールなどの抗酸化物質を十分に補給しましょう。同時に葉酸や鉄分・カルシウム・亜鉛など妊娠に不可欠な栄養素を補給することも大切です。
脂質の極端な制限は避けましょう。コレステロール不足により十分なホルモンを造れなくなってしまいます。かといって摂りすぎると肥満をまねき、卵子の質を低下させるので注意が必要です。
糖質を摂りすぎると、糖化という現象によって組織がダメージを受けやすくなります。丼ものや麺類は糖質の占める割合が大きいので、できれば食事は主食+主菜+副菜の組み合わせにするのが理想です。お菓子や果物・ジュース類にも糖質が多いので、摂りすぎないようにしましょう。
まとめ
卵子の質は加齢にともなって徐々に低下していき、40歳を過ぎると妊娠はかなり難しくなるといわれています。これを根本的に解決する方法はなく、誰もが避けられない問題です。酸化ストレスを蓄積させない生活習慣を身に着けながら、早めに妊活をスタートさせましょう。

監修

一倉絵莉子
産婦人科医 / 六本木ヒルズクリニック
日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会会員
日本大学医学部卒業。川口市立医療センター、北里大学メディカルセンター産婦人科等に勤務。
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